自分の歯を失い入れ歯を使うようになっても、おいしく食事を楽しみたいものです。日本歯科大学付属病院臨床講師で、高齢者歯科専門の栄養士である山田晴子さんに、入れ歯で食事をとる際のポイントを聞きました。

徐々に硬い物を

　入れ歯とのつきあいは部分入れ歯から始まり、最後は総入れ歯になるというケースが多いです。
　「総入れ歯は人工物により上あごを大きく覆うので、自分の歯と同じ力でかむことはできません。使いこなしていくためには、最初のトレーニングが必要なんです」。
　まず鏡の前でゆっくり話してみる。姿勢を正して、舌や歯、上あごを意識して発語し、違和感やしゃべり難さがあったら歯科医に相談しましょう。
　次に大さじ１杯ほどの水を飲んでみる。うまくできなければ、アイスクリームやヨーグルトなど冷たくてとろみのあるものをトライ。「とろみがあると食塊はゆっくりのどの奥へ移動するので、飲み込むタイミングがつかみやすいはずです」。
　３段階目は、ご飯やフレンチトーストなどの軟らかいものを食べて、コツを覚えます。自分が食べやすそうだと思うもので試してもいいですね。そして、あせらず徐々に硬い食べ物に挑戦。慣れてきたら義歯を使わない人と同じ料理を食べてみます。
　「軟らかい食べ物が食べられるから」と、硬い物をさけたままの人がいますが、山田さんは、「軟食オンリーだと口を動かし飲み下す回数も減って口の中が汚れ、食べられる物の幅が狭まります」と指摘。なるべく元通りに食事ができるように練習することが大事です。
　慣れるまでの時間は個人差があるので、痛い時は我慢せずに歯科医院へ。何度も調整しながら次第になじんで「ああ、こういうものか」と体が会得して使いこなせるようになればいいのです。

厚めに切る

　調理の工夫次第でもグッと食べやすくできますね。薄い物はかみ切りにくいので、白菜などの葉物野菜は端から巻いて厚みをもたせてから。またニンジンの漬物も、厚さ２�oの輪切りより８�oの方が食べやすいので、十字に切れ目を入れると、より食べやすいです。
　みじん切りにした食品は、口の中で一塊にまとまりにくいものです。切るサイズは、５�o〜１�p角程度に。弾力のあるこんにゃくは、さいの目にかくし包丁を入れるか手綱こんにゃくにすると、かみやすいです。煮魚は煮汁にとろみをつけて、魚をからめながら食べると、口の中でまとまりやすくなります。
　ほんの少しの手間で、入れ歯でも食べやすい食事になるので、工夫しながら調理してみてください。