エナメル質――歯の最も外側の歯質をこう呼びますが、ここは人体の組織の中で最も高い硬度を有しています。この硬い歯が、どうして割れやすくなるのでしょうか。 最も大きな医原的要因として、歯の神経を取り除くこと(抜髄)があげられます。鎮痛ややむを得ない理由で抜髄処置をすると、歯髄から歯質への水分の供給が絶たれます。生きている樹木と木材の違いと言ったらわかりやすいでしょうか、抜髄した歯は神経のある歯に比べて極端に脆弱になるのです。 そのためこれを補強する目的で、力のかかる部分を金属等で完全に覆う治療方法をとることが多いです。しかしこの方法もデメリットがあります。削除する歯質の量が多くなることです。歯は、残存歯質が少ないほど寿命が短くなりますから、ある意味この方法は初めから自己矛盾を抱えています。 次に、むし歯が進行した場合です。むし歯が大きく拡大して抜髄処置になれば、前述の通り。しかしそこまで至らないむし歯でも、表面のエナメル質を超えて進行すると、石灰化度の低い象牙質中で進行し、また横方向にも拡大します。そしてある日突然陥没したように歯が欠けることになるのです。 その他、抜髄した歯を補強するために、歯の内部構造としてポスト(あるいはコア)と呼ばれる金属等の心棒を入れますが、ここに縦方向にくり返し力が加わった場合、くさび効果で歯が割れたり、また、横方向から力が加わった場合、テコ作用で割れたりすることもよくあるのです。 さらに私たちは日常、飲食物では90℃の熱いお茶や、マイナス10°の冷たい氷菓を口に入れます。特に前歯は、こうした温度差にダイレクトにさらされますね。この温度変化による膨張と収縮に歯質が耐えきれなくなると、表面に亀裂が入るんです。成人の前歯の多くにはこの表層クラックがよく見られますが、亀裂の多くは変温の影響
受ける表面のみに存し、内部にまでは達していません。 しかし、この温度変化が頻繁で、加齢とともに、この内部ひずみが蓄積し、歯の弾力が失われると、歯が突然割れることがあります。 また、歯の破折の原因として最近注目されているものに、アブフラクション(摩耗と破折)があります。歯ぎしりですり減った歯は咬合力のストレスに弱く、歯頚部に集中してここからよく折れます。ちょうど地震による高層ビルの揺れで、1階部分に応力が集中するのに似ていますね。 破折を予防するには、(1)むし歯を放置しない、(2)熱いものと冷たいものを交互に口にしない、(3)歯ぎしり、食いしばりをしないの3点注意です。
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