その名に「知恵」とつくのは英語圏、「恋」とつくのは韓国。腫れて痛い思いをした方もいるでしょう、「親知らず」と呼ばれる奥歯のことです。英語では「wisdomtooth」、韓国語では「サライン(恋の歯)」。表現の違いこそあれ、親の手を離れて分別がつく頃生えるのは万国共通のようです。 現代人ではまったく萌出しないケースも増えていますが、そもそもどんな役割があったのでしょうか。原始時代の人々は、固いものを摂取していたため歯の摩耗が激しく、これに見合うために智歯は必要だったとされています。現代人の咀嚼回数は、1回の食事あたりでみると、卑弥呼の時代の7分の1、戦前の2分の1ほどといいます。 前歯の間から常に舌が出た状態や、しっかり口を閉じることができない子どもが増えているようです。軟らかいものがかり食べた弊害でしょうか。ゆっくり咀嚼すると唾液の分泌を促し、むし歯や歯周病の予防につながり、肥満予防や脳の活性化にも効果があるんですけれども。 介護予防の分野でも咬むことは注目を集めています。日本人の死因で4番目に多い肺炎。とりわけ誤嚥性肺炎のリスクを減らすには適切な口腔ケアが必須です。飲み込む機能の回復には、義歯を用いるなどして、少しずつでも固形食をとることが有効といわれます。 「親知らず、子も知らず」に向かっていくのは人類の進化なのか、退化なのか。痛いのはもちろん御免ですが、いずれにせよ、恋や知恵を冠した歯を失うのは少し寂しいですね。たまには、ゆっくりよく咬むことを実践したいです。
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